メコン・ウォッチの松本です。
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昨年末に皆様からご賛同を頂きました「タイのヒンクルート石炭火力発電所建設
計画からの撤退要請」は、12月25日に、出資企業三社の社長宛てに送付致しまし
た。また、CCとして、融資を検討しています国際協力銀行と所管する財務省にも
送っております。

本案件につきましては、タイ政府が1月11日(小泉首相のタイ訪問と重なる)に
も、政府としての姿勢を決めるとの情報があります。現地などからの情報は、今
後も逐次継続してお伝えさせて頂きますので、ご協力のほどよろしくお願い致し
ます。

*********以下、送付した文書***********

                                                                 2001年
12月25日
株式会社トーメン
   社長 田代 守彦 様
株式会社豊田通商
   社長 古川 晶章 様
株式会社中部電力
   社長 川口 文夫 様

タイのヒンクルート石炭火力発電所建設計画からの撤退要請

タイ南部のプラチュアップキリカン県に建設が計画されているヒンクルート石炭
火力発電所をめぐりましては、地域の自然環境や住民の社会生活に甚大な影響を
及ぼす恐れが専門家などから指摘され、また被影響地域の議会による計画反対決
議を含む住民の激しい反対運動が続いています。同事業を推進するユニオンパワ
ー開発会社(UPDC)に合計で64%を出資している日本企業貴三社に対しまして、
各社の企業倫理・環境憲章などに照らし合わせ、現地の環境保全と社会生活の安
定という観点から、同事業から撤退されることを強く要請致します。

同事業は総出力1400メガワットの石炭火力発電所を建設し運営する世界最大級の
独立発電事業(IPP)で、これによって、大量の温排水が近隣の海に排出される
ため、周辺の海の生態系が大きく変化し、地域住民の生業である漁業に甚大な影
響が出ることが懸念されています。また環境影響評価(EIA)に繰り返し重大な
欠陥が見つかり、公聴会も計画を推進する官庁の元関係者を委員長に据えた不公
平なものでした。漁業被害を最も受ける住民たちが多く住むバーンクルート市
(テーサバーン)議会は同事業への反対決議を圧倒的多数で採択するなど、激し
い抗議運動が4年以上も続いています。

具体的な問題点を以下に列挙いたします。

●環境影響評価(EIA)の度重なる欠陥
同事業は、1998年に地元住民の激しい抗議行動で一端は白紙に戻された上、環境
影響評価(EIA)が建設予定地沖に存在する珊瑚礁の重要性を無視していたこと
が発覚しました。EIAを実施したコンサルタント会社は入札指名停止処分を受
け、追加調査が行なわれましたが、その際も海洋生態学上の調査はわずか2か月
間で終わり、内容についても依然として以下のような問題点が指摘されていま
す。

・EIAでは164種の海洋生物を確認したとあるが、99年8月にタイ政府漁業局のチ
ャワリット博士のチームが行なった調査では470種が確認されている。
・EIAではバーンクルート市には99世帯の漁民と100隻の漁船しかないとしている
が、実際には500世帯の漁業関係者と300隻にのぼる漁船がある。これに加え近隣
の他の行政区からこの海域を訪れて漁を行う住民がいる。
・建設後の廃棄物投棄場は最初のEIAでは珊瑚礁の上だった。追加調査でも依然
として豊かな漁場に投棄することになっているにも関わらず、その影響を調査し
ていない。
・追加調査が緩和策として打ち出している海での養殖プロジェクトでは470種の
うちわずか7種の海洋生物しか対象となっていない。
・今年に入って沿岸でクジラやイルカなど環境保全や環境資源の観点から極めて
重要な生物の生息が確認されたが、それらへの影響はEIAにも追加調査にも含ま
れていない。

●公聴会の不公平性
98年12月の建設計画反対派住民と警官隊との衝突を契機に、タイ政府は公聴会の
開催を命じましたが、2000年2月に開催された公聴会は公平性に欠けたため、出
席したのはほとんど賛成派ばかりの200人だった一方、同じ日に開催された抗議
集会には千人が集まりました。反対派住民は、公聴会で建設計画の是非を問うの
ならば、一端計画に関わる種々の許認可やEIAへの承認などを取り消し、公聴会
の委員選出プロセスに地元の住民グループの参加を認めるべきだと主張しました
が、受け入れられませんでした。そればかりか、公聴会委員長に、プラチュアッ
プキリカン県を重工業地帯に定めて同事業に道を開いた国家社会経済開発庁
(NESDB)の前事務局長が指名されました。そのため、多くの住民が公聴会をボ
イコットしました。しかも公聴会の結果がどのように建設計画に反映されたかの
説明はなく、その結果すら未だに公表されていません。

●被影響地域の議会による反対決議
タイの97年憲法第290条では、地方自治体は、地元の自然環境や住民の生活・健
康に影響が出る恐れのある管轄地域外のプロジェクトや活動の検討、あるいは自
然資源や環境の保全活動に参加できることがうたわれています。このプロジェク
トは人口5000人のトンチャイ村(タンボン)に位置していますが、隣接する人口
4300人のバーンクルート市(テーサバーン)は被影響住民を多く抱える自治体で
あり、憲法第290条に基づけば、プロジェクトの重要なステイクホルダーです。
そのバーンクルート市の議会が計画に反対している事実を重く受け止める必要が
あります。

●その他の問題点
上記の点以外にも、現在40%前後と言われるタイ国内の電力供給過剰を考えれ
ば、大規模な火力発電所計画は不要な公共事業であるという議論がタイ国内にあ
ります。また石炭火力発電所が引き起こす大気汚染や地球温暖化問題に対しても
厳しい批判がタイ国内外から出されています。さらに、土地の取得をめぐる汚職
の疑いについてタイ政府の国家汚職防止委員会が地元住民の訴えを受理しまし
た。

ヒンクルート石炭火力発電所建設計画には、これだけ多くの環境・社会影響や計
画段階での問題点が指摘されています。開発企業体のUPDC社に出資している貴三
社は、いずれも自然環境や地域住民との共生を企業活動の理念にうたっていると
理解しております。例えばトーメンは、自らを『環境先端企業』と呼び、『環境
憲章』の中で「事業活動において、地球環境の保全と地域生活環境に配慮」する
としています。豊田通商は、基本理念で「人、社会、地球との共存共栄」をうた
い、行動指針の中でも「世界の人々に喜んでいただけるオープンでフェアーな企
業活動に努める」と定めています。さらに中部電力も、『環境宣言21』を策定
し、「自らを律して行動するとともに地域や世界と連携しながら地球環境の保全
に努めます」と明記しています。

ヒンクルート石炭火力発電所問題は、すでに国際的にも広く知られるところとな
り、輸出信用機関(ECA)のプロジェクトによる環境・社会影響を監視している
世界中の非政府組織(NGO)や市民グループが、貴三社の今後の対応に注目して
います。

自然環境や地域社会との共生を企業理念にかかげておられる貴三社が、この計画
に関与することで地域社会を支える自然環境とそこに息づく住民の生活を破壊す
ることのないよう、英断をもって同事業から撤退されることを強く要請致しま
す。

CC. 財務省国際局開発金融課
    国際協力銀行国際金融第一部第三班


******賛同団体******
ADB(アジア開発銀行)福岡NGOフォーラム、APECモニターNGOネットワーク、ODA
改革ネットワーク、火力発電所問題全国連絡会所属15団体(橘湾の巨大火電に反
対する会、三隅火電を考える会、住友埋め立て地にLNG火力をつくらせない会、
衣浦石炭火力発電所建設計画反対住民の会、北茨城の青い空と海を守る会、エコ
ネット舞鶴、石炭火力発電所問題を考える市民ネットワーク、火力発電公害問題
連絡会、火力発電中央区連絡会、行動する環境グループ「葦の風」、北茨城石炭
火発を考える高萩市民の会、環境を守る勿来の会、御坊第2火電に反対する郡市
民の会、公害から銚子を守る会、広島県芸南地区火電阻止連絡協議会)、公共事
業チェックを求めるNGOの会、債務と貧困を考えるジュビリー九州、地球の友ジ
ャパン、メコン・ウォッチ

******賛同者(順不同)******
会津菜穂(英国サセックス大学)、長瀬理英(地域自立発展研究所)、帯谷博明
(東北大学大学院)、田中優(自然エネルギー推進市民フォーラム)、神谷哲郎
(エジプト在住)、星川淳(作家・翻訳家/屋久島環境政策研究所)、星川ま
り、藤原寿和(廃棄物処分場問題全国ネットワーク)、石中英司、佐久間真一
(進出企業問題を考える会)、大西志麻里(立命館大学)、高丸正人(NPO職
員)、戸田亜理子(第15期関西NGO大学運営委員)、高橋未玲(「翻訳で自然保
護をしよう」実行委員会)、宮崎祐(大阪YWCA)、加藤久雄(脱ダムネット諏
訪)、川上そのこ、名村隆行(東京大学大学院)、久世宣孝(タイ国チュラロン
コーン大学大学院)、三宅隆史((社)シャンティ国際ボランティア会(SVA
))、吾郷健二(西南学院大学)、伊藤孝司(フォトジャーナリスト)、浅見靖
仁(一橋大学)、小鳥居伸介(長崎外国語大学)、尾関葉子(ジンバブウェ在
住)、岡本和之、藤井由美(タイ国子ども財団子どもの村学園)、岩永隆治(や
まぼうし工房)、石口耕平(A SEED JAPAN)、近田真知子(地球市民の会かなが
わ)、田口誠道(臨済宗妙心寺派長昌寺)、田口操(フォーザチルドレン)、金
子亘、近藤直子、宮崎直緒子((財)地球環境戦略研究機関)、渡辺重夫(A
SEED JAPAN)、秋山宣子、土橋晴美、物江陽子(早稲田大学大学院)、前田久幸
(梅枯れ対策期成連盟事務局)、中地重晴(環境監視研究所)

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Satoru Matsumoto
Director, Mekong Watch Japan
5F Maruko bldg., 1-20-6 Higashi-Ueno,
Taito-ku, Tokyo 110-8605, Japan
Tel +81-3-3832-5034, Fax 5818-0520
E-mail satoru-m@msi.biglobe.ne.jp
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