淡水の危機はダムでは防げない


ワシントンの共同通信から1月20日に発信されたニュースでは
国連環境計画(UNEP)の協力でパシフィック研究所がまとめた報告書には
「地球温暖化の影響も加わり、数十年後に予測される深刻な
水不足には、ダムを造るという従来の方法では対応できない」
とあるということでした。

このたび公共事業チェックを求めるNGOの会では、
この60ページに及ぶ報告書の抄訳を下記のように作りました。
この報告書を日本中に広めたいと考えますので
どうか皆さんのネットワークで次々と伝達していってください。

なお、今年このパシフィック研究所を招致する国際会議を
私たちのネットワークの中で開催することも検討しています。

さまざまな現地で河川局と対峙する仲間に希望を持ってもらえるように
皆さんの広報能力に期待しています。
特に地元の記者さんや議員や首長にも、
この報告書を手渡してくださるようお願いいたします。

「公共事業チェックを求めるNGOの会」代表
「長良川河口堰建設をやめさせる市民会議」代表
「脱ダムネット・ジャパン」代表

天野礼子


「世界的規模で起こる“淡水の危機”はダムでは防げないし、ダムがその危機を起こしている」

PHグレイク、A&Hサイ
パシフィック研究所
(公共事業チェックを求めるNGOの会 抄訳)

現在、水資源管理および保全方法は岐路に立たされている。従来の方法では21世紀
に迎える数々の変化に対応できないだろう。

 現在、公害による地下、地表の淡水の汚染、地球的規模の気候変動により水の需要
と供給のバランスが損なわれ、水が感染源とされる疫病、生水に関係する生態系破壊
などが引き起こされた。以前のこれらの問題に対する解決策は過去の記録をもとにす
ると、たとえば新しい施設を建設する等、大規模なものであった。

 しかし、以下に述べる最近の変化は過去を参考にすることはできない。このような
解決法のほかにも施設に頼らない新しいやり方が必要とされ、水の使用効率を上げ
る、水の再使用などの方法もあるが、これらからは「維持可能な開発」を目的として
水資源管理、保護を行わなければ以下に述べる将来の危機に対応することはできない
だろう。

 このレポートはその危機、
@人間の健康
A生水生態系の破壊
B生水の品質
C地球的規模の気候変動
およびこの結果生じる生水に及ぼされる影響および将来のためのいくらかの政策的意見、
および制度に対する提案に主眼を置いた。

これらの問題は相互に関連し、淡水に対して先述した影響を及ぼしている。生水の生
態系破壊の問題は特に人口が多い、大規模な水のくみ上げ、大規模な水の排出がある
地域に起こる。それは
@人口、消費増加、
A基幹整備開発(ダム、堤防、土手、川の迂回路)、
B土地利用政策(土地の転用、非効率的な土地利用)、
C動植物、生態系の摂取過剰(過剰作付、捕獲)、
D化学、生物的汚染(土地、大気、水)
などによって起こされると考えられるからである。
そのほかに生態系が損なわれる問題として
E外来種の進入
F気候変動を呼ぶ温室効果ガスの排出がある。

 特にダムなどの基幹設備の開発により、生態系の重要な部分が失われ、川の流れ、
水温、栄養および堆積物の運搬を変化させ、魚の遡上の妨げとなった。この結果、水
質、水辺の住環境、氾濫原の肥沃性、スポーツ、漁業、デルタ地帯の維持とその経済
性に悪影響を与えた。

水質には農業および工業活動等の人間活動および気候、水文学的状態、土壌その他の
自然的な要因が関連している。自然的要因は特に塩化、水中酸素濃度の増加、水質を
悪化させる要因は
@細菌レベルでの汚染、
A塩化、
B過剰酸素濃度、
Cリン、窒素汚染、
D酸化がある。

 気候変動が将来現実の問題となるだろう。しかしこの問題に関しては確たる証拠が
ないのが現状である。具体的な変化は
@温度、蒸発量、降水量
A降雪量、雪の溶解量、
B気候変化の多様性、嵐、その他自然の暴威、
C残雪、氷山、永久氷河、
D水流の量、
E土壌の水分保持、
F湖の水位、状態
G地下水、
およびもちろん
H生態系にも影響を与える。

 気候変動が生態系に対して具体的に与える影響は湖の水位、水の透明度、湿原の減
少、水流温度の変化、水の滞留時間、固有魚類の減少および絶滅などがある。これら
の影響は単に長時間におよぶ気候変化で起こるものではなく、短期間の変化でも起こ
りうる。

 これらの変動に対する対応策は、社会経済効果を用いて水の需要、供給の予測を立
てることが必要である。この予測に基づいて、気候変動によってもたらされた変化を
低減する方策を採るか、変化に対応した政策とするかを決定しなければならない。

 現在取られている水管理政策は気候変動に対して逆効果を与えるのみである。過去
の水資源管理、保全は過去の経験に基づいて示されたデータを将来も起こるものとし
て予想し、この予測をもとに政策が進められたからである。アメリカの水供給システ
ムもこれをもとに計画されている。

 ダムは過去の川の流れ、洪水の量、回数などに基づいて建設され、貯水池は過去の
水文学的な指導のもとに複合的な目的達成のために管理されている。また従来のダ
ム、および堤防等に見られる水管理方法は供給者側の利益のみを考慮して作られたと
いう側面もある。

 そこで、政府および公的機関は気候変動を考慮に入れ、もう一度全ての段階で法
的、経済的、技術的、手続きおよび管理方法を見なおし、気候変化および水資源に対
する損害を防ぐための予防策を講じる必要がある。これは将来の予測をもとに共通の
合意を作成し、これに基づく政策を実行しなければならないことを意味する。

パシフィック研究所
http://www.pacinst.org/
報告書のプレスリリース
http://www.pacinst.org/reports/freshwater_threats.htm
           


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