「自然再生推進法」について
2003年1月10日 天野礼子


某市の職員Aさんから、以下の【B】ようなおたずねを12月27日にいただいた。

自然再生推進法案について当「公共事業チェックを求めるNGOの会」は
その誕生の仕方にまず問題があり、民主党に「対案」を出して欲しいと依頼した。

民主党は当初、鮫島氏を中心に強力な対案を作ったものの、どこからかほころびが入って、
やすやすと与党案に賛同してしまう流れができてしまい、
2002年12月3日に参議院で成立するという経過をたどった。

「WWFJ(世界自然保護基金日本委員会)」などいわゆる"環境御三家"と、
環境庁(当時)に藤前干潟問題を解決してもらったT氏がまず環境省から説得を受けたことが、
市民側にとっては痛手であったと思う。

さて。そのように「ひっそりと産み落とされた悪魔の子」ともいえる、
第三の「列島改造論」になる可能性もある「自然再生推進法」だが、これを「天使の子」に育てるのが、
「悪魔の子」誕生を許してしまった私たち市民の責任であると考える。

そこにAさんからとても的確な質問をいただいたので、
民主党の中の良識派、福山哲郎参議院議員に「正月休みの宿題」として回答をお願いしていたら、
御用はじめの1月6日に回答をいただいたという経過である。

福山議員の秘書の小林氏は「気候フォーラム」というNGO出身の勉強家。
Aさんの質問にはなかったがこちらでお願いした財源面での質問にもご返答いただいたので、
皆さんの参考にして欲しい。


【B】自治体職員Aさんからの質問

このたび成立しました自然再生推進法ですが、条文を読んだり報道を見聞きしたりして、
成立までの背景や大筋の運用法は分かっているつもりなのですが、
私たちのような一地方自治体としてどのような対応が今後求められるのか、
その点についてご教示下さい。具体的には、

1. 適用対象となる事業は河川改修や港湾事業などの国有地の事業が中心となるのか。
    民間の開発事業も対象となるのか。
2. 私たちの自治体の最近の事業に関しては、地元の代表者の勉強会を設立して
    計画案を出してもらうことをしてきたが、推進法の成立を受けて変わることがあるのか。
3. 自然再生協議会、専門家会議の意見を聞くということだが、その意見はどの程度の権限を持つのか。

以上3点について、ご回答願います。
年の瀬のお忙しい中、ぶしつけな質問で大変申し訳ありませんが、よろしくお願いします。


【C】自然再生推進法についてのQ&A
文責:小林哲也(参議院議員福山哲郎事務所 政策担当秘書)

1.この法律の適用対象となる事業
適用対象となる事業は国有地の事業だけとは限りません。
民有地を利用した開発事業も対象とすることが可能です。
法案作成の際、事業の具体例としてイメージされていた場所が
北海道の釧路湿原(国有地)と所沢のくぬぎ山(民有地)等と言われていることからも、
対象は国有地だけではないことがお分かり頂けると思います。

尚、蛇足ながら申し添えますと、この法律は自然再生を目的とした
事業全てに適用されるものではなく、事業者が希望した場合のみです。
逆に言えば、事業者が希望しなければ、このスキームに則らずに事業を行うことも勿論可能であり、
その決定は基本的には事業者に委ねられています。しかし第三者(NGO等)が、
この法律の存在を理由にその適用を事業者等に要求することは想定出来ると思います。

2.従来型の審議会等とこの法律によって設置される協議会の違い
この法律の施行によって、ある事業の実施に向けて設置された審議会等の存在が直ちに無効になることはありません。
上述したように、この法律は全ての自然再生事業に適用されるものではなく、
あくまで事業者が希望した(若しくは第三者の要求を受け入れて合意した)場合のみですので、
それ以外の事業については、従来のような審議会等を設置することが可能です。

 しかし、もしこの法律に基づいて事業を実施する場合は、協議会の設置が義務付けられています。
この協議会の構成メンバーやその選考方法等については、
政府が定める基本方針(現在策定中)に従って行う必要があります。
従って場合によっては、従来のような審議会等の構成では不十分となる可能性
(例えば地元NGOが含まれていない)も想定されます。
またこの協議会は審議会等のような第三者機関ではなく、
事業実施当事者も参加し、その意志決定に加わる必要があります。

3.この協議会の意見の拘束力
この法律の適用によって設置された協議会は、事業の「全体構想」を作成する任務を負います。
そして上述したように協議会には事業実施当事者も参加しますので、
この協議会が決定した全体構想は、事業者に対して拘束力を持ちます。
具体的には、事業者が策定しなければならない事業実施計画は、
この全体構想と整合性が取れていなければなりません。
この点で協議会の意見は、単なる審議会の答申とは性格が異なります。

 但し、同法には罰則規定がありません。
従って事業者がこの全体構想に基づいて事業実施計画を策定しながら、
実際にその計画通りに事業を行わなかった場合、その事業を止める手だてが法的にはありません。
従って厳密には、協議会の意見は強制力を持ちません。
しかし実際には事業者も参加し、合意した上で全体構想を決定する訳ですから、
その全体構想を無視して事業を行うことはまず考えにくく、従って事実上、
事業者はこの協議会の決定に拘束されると言っても差し支えないと思います。

4.この法律による財政的な支援措置の有無
この法律では、自然再生事業に対する政府の助成措置等は義務化されていません。
国と地方自治体の努力義務が第15条に規定され、また附帯決議に記述されているだけです。
従ってこの法律の適用を受けることによって、政府や自治体による財政的な支援措置が直ちに約束される訳ではありません。
しかし、この法律に則って行う事業に対しては、法的根拠があることから助成がし易くなることも事実です。
自然再生事業に対しては、これまでも環境省や国土交通省が助成を行っていましたが、
この法律の制定を受けて、こうした事業への助成が促進されることは容易に推察出来ます。
その意味では、財政的支援措置を受けることについて、この法律が全く無力とは言えないと思います。

以上


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