Eco-Economy Update
2003年12月16日版
Earth Policy Institutの許可を得て掲載しています。


環境難民の新しい流入問題
レスターRブラウン


 2003年10月中旬、イタリア当局がイタリアに向かっているアフリカ難民を乗せた船を見つけた。燃料、食物、水なしで2週間以上も漂流していたため、多くの難民は死亡していた。初め死体は船外に投げられていたが、ある時点からは生存者は死体を端に持ち上げる力もなかった。死亡者と生存者は"ダンテの地獄のワンシーン"の様だと救助隊員が説明したように船を占領していた。

 難民はリビアから乗船したソマリア人だと見なされていた。我々は彼らが政治的か経済的か環境的難民かどうか分からない。ソマリアのような失敗した状態では3つ全てが考えられる。ソマリアは人口超過、多すぎる牧草地、田園経済の砂漠化と共に生態的に全く無力であると我々は知っている。

 現代社会では政治的、経済的理由により人々が移民する大規模の経験をしているが、今、環境的圧力により母国から引き離される難民の流れが増大してきている。アメリカでこのような現象が現代で起こり始めたのは、1930年代の黄塵地帯の間、およそ300万人の"オキーズ"が大草原南部を去った時で、彼らの多くがカリフォルニアに移住した。

 現在、イタリアやフランス、スペインの海岸に打ち上げられる死体は日常の出来事になっている。アフリカの絶望的な人々による絶望的な行動の結果である。そして、毎日何百人のメキシコ人が自分の命を賭けてアメリカ国境を越えようとしている。400から600人のメキシコ人が毎日田舎の土地を去り、生計を立てるのに小さ過ぎる、もしくは侵食され過ぎた土地の区画を放棄している。彼らはメキシコの都市部か、アメリカに違法に入国しようとしている。多くがアリゾナの砂漠の熱気にさらされて死んでいく。

 他の環境難民は広く生態の災害が認識されているハイチからの流入である。土地が植物を剥ぎ取り、土壌が海に洗い流されている田舎の経済では、人々は遠く影にいるわけではない。公海のために設計されていない小さい舟でフロリダに行こうと試みるが、多くは溺死する。

 アメリカの黄塵地帯の難民は早い時期での環境移民の例だが、もし我々が通常通りビジネスを続ければ、未来に予想される数と比べるとその数は見劣りがするだろう。新しい難民の中に、帯水層の欠乏や井戸の枯渇のために移動せざるを得ない人々もいる。今までは村からの避難で良かったが、イエメンの首都・サナやパキスタンのバルチスタン州の州都・クエッタのように、次第に全ての都市部を再配置しなければならないかもしれない。

 世界銀行は、年に6メートルも地下水面が下降しているサナ市では残っている水の供給が2010年までに使い尽くすと予測している。その点では、指導者は離れた地点から水を運ぶか、町を放棄しなければならないだろう。

 元来5万人の人口のために設計されたクエッタは現在、化石や補充できない帯水層だと信じられている物が欠乏しており、地下から汲み上げる2000の井戸水に頼っている100万人の居住者がいる。サナのように、クエッタはこの十年の残りの間、水が充分にあるかもしれないが、それからの未来は不確かである。水の見通しを評価しているある研究の言葉では、クエッタはいずれ"死の町"になるだろう。

 およそ30億人の人々が、地下水が既に下がってきており、人口増加が水文学的貧困の地位に膨れ上がる国々に住む2050年までの世界の人口に追加され、水難民は平凡なことになるであろう。彼らは人口の増加が水の供給を越える乾燥地帯や雨の少ない地域にもっとも共通して見られるだろう。水の汲み上げが現地の地水層を枯らし、村人はもはや水を得る事が出来なくなったために、北西部インドの村は見捨てられた。北部と西部の中国やメキシコの一部の村の何百人の村人は水不足のために移動せざるを得ないかもしれない。

 砂漠化の拡大もまた人々を難民とさせる。ゴビ砂漠が年に10,400平方キロメートル(4,000平方マイル)も拡大している中国では、難民の流れは膨れ上がっている。中国の科学者は今や砂漠難民は3つの省−モンゴリア中心部、寧夏、カンスーにいると報告している。アジア開発銀行のカンスー省における砂漠化の予備査定では4,000の村が放棄されるだろうと見られている。

 中国人写真家、ルー・トンジンによる砂漠化の本であるデザート・ウィットネス(砂漠の証言)の中で、西部からモンゴリア中心部に及ぶ完全に普通に見える村のある写真がある、ただ一つを除いて。そこには人が一人もいないのである。その4,000人の住民は地水層が枯渇し、水が全くないために移動させられた。

 イランでは、拡大する砂漠と何千も数える水不足のために、村が放棄されている。バルチスタンやシスタンの東部の省だけでも、124ほどの村が砂の吹き寄せによって葬られた。テヘランから1時間ほど車で行ったところにある小さい町のダマバンドの近辺では、88の村が見捨てられた。

 ナイジェリアでは砂漠化現象が国の最重要環境問題となっており、3,500平方キロメートル(1,350平方マイル)の土地が毎年、砂漠となっている。砂漠化が進むと、農家や牧夫は縮小している居住できる土地や都市部に移動せざるを得なくなる。

 潜在的に大きな難民のその他の原因は、海水面の上昇にある。天候変化についての政府間委員会は2001年初旬の調査で海面がこの世紀の間に1メートル近く上昇する可能性があると報告した。しかし、それから完成した研究では、氷の説ける速度が以前報告された時よりもさらに速く、海面の上昇がさらに高くなる可能性があると指摘した。

 1メートルの海面上昇でさえ、4,000万人をゆうに移住させ、バングラデシュの米どころの半分を水浸しにさせる。1億4,400万人が密集している国では、内部の移住も容易ではない。しかし、他にどこに行けると言うのだろうか?いくつの国が4,000万人のうちの100万人でさえ受け入れるだろうか?中国、インド、インドネシア、パキスタン、フィリピン、韓国、タイ、ベトナムを含む米どころの川の氾濫原がある他のアジアの国々も海水面の上昇で何百万人にも及ぶ人達の集団出国を後押しするだろう。

 地下水面の下降や砂漠拡大化による難民の流れはまだ始まったばかりである。この流れがどのぐらい大きいか、海水面がどのぐらい上がるのかを見るには、しばらくの時間がかかるだろう。しかし、その数は膨大になる可能性がある。

 環境難民の上昇している流出は、我々の現代文明が地球の自然維持体系と同調していないという兆候でもある。他の出来事の中で、家族計画のギャップを埋め、またより小さい家庭への移行を加速する社会的境遇を創造する世界規模の努力や水の生産性を上げる全世界の全面攻勢、二酸化炭素排出を抑え地球の天候を安定させるエネルギー戦略が我々には必要だと伝えているのである。

(岩井あゆみ訳)



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