VOL.18-1


公共事業を国民の手に取り戻すために
民主党代表  菅 直人


 長良川河口堰は誰のために造られたのか。諫早湾は何のために干拓されるのか。こ んな基本的な問題に対する明確な回答も無いままに、ただ「一度決めたことだから」 という理由で莫大な税金を投入しているのが、現在の公共事業です。この「錦の御旗 」の一言が、役所の事業即ち権限を確保し、それに繋がる業者を維持し、そして一部 の政治家に権力を与えてきたのです。
 このシステムを維持できた最大の原因は、公共事業が霞が関内部の自己完結したシ ステムの中で実施されていることです。官僚が情報を囲い込み、決定し、評価するシ ステムそのものが問題なのです。私はこれを「公共事業社会主義体制」と呼びます。 そして「クレムリン」ならぬ「霞が関」に群がる一部の人のために、現在の公共事業 は行われているのです。
 これに対し民主党が用意した武器が、皆さんのグループの後押しをいただいた「公 共事業コントロール法」と、「財政透明化法」「行政監視院法」の3法案です。「公 共事業コントロール法」によって、社会資本整備の優先順位や各事業化計画の内容に ついて国会議員が議論をし、また計画の見直しも行います。「財政透明化法」により 毎年度予算の公共事業の箇所付けや単価が明らかになり、個別の事業のチェックが可 能となります。「行政監視院法」によって公共事業に対する第三者機関の評価が可能 となります。まずこのようなシステムの整備が必要です。これが国民のための公共事 業に向けた第一歩です。
 その上で以下の観点から公共事業の改革が必要です。
 まず第一は財政再建・行政改革を実現することです。そのためには年間約10兆円 の予算を投入する公共事業に対し、費用対効果を加味し、社会資本整備の優先順位を 付けることが不可欠です。また公共事業はそのほとんどが建設国債という借金で賄わ れ、現在でも11兆円以上ある利子負担を更に増やします。この結果、皆さんの税金 の多くが利子の支払いに消えていくのです。同時に公共事業は、行政の悪癖である「 縦割り」の最たる例です。この「縦割り」が、財政危機の中でさえ、有料道路と農道 を並行して造るようなムダを生み出しているのです。
 第二は環境保全のためです。近年の環境意識の高まりは、「ヒト」という種が自ら の生存に対し潜在的に危機感を持ち始めた故の「叫び」であるとも考えられます。人 間の存在基盤である自然環境を保全することは、何より我々自身の為なのです。自然 環境に直接的に影響を与える公共事業のあり方を、考え直す必要があります。

写真:7月7日、鳩山氏ら超党派議員が船上調査
 photo by 伊藤 孝司

 システムを整備し、議論を行う。これが出来ずに今のままの公共事業を続けていけ ば、私たちは将来の世代にその生存を危うくする自然環境と無意味で莫大な借金を残 すのみの、「迷惑世代」になりかねません。
 我々が「誇りある世代」となるために、民主党の提案している法案は不可欠です。 皆さんの“長良川”の運動が火をつけて下さった公共事業のチェックを求めるうねり を、より大きな世論として、21世紀までに公共事業を国民の手に取り戻しましょう 。


「公共事業コントロール法」を成立させ、
河口堰ゲート開放の世論づくりを!
長良川河口堰建設に反対する会 事務局長 天野礼子

 七月七日、河口堰が運用されて二年と一日日の朝、私達は岐阜羽島駅に、民主党の 代表、鳩山由紀夫氏と、「公共事業チェックを実現する議員の会」事務局長・秋葉忠 利氏(社民党)、新進党の笹山登生氏、民主党副代表の岡崎トミ子氏、同党近藤昭ー 氏(民主党愛知代表)、共産党の有働正浩氏・藤木洋子氏を招えた。
 この日は、長島町で、建設省のモニタリング委員会の委員を務められる、岡山理料 大学の奥田節夫先生、名古屋大学名誉教授の西條八束先生をお迎えして、「河口堰運 用二年、その被害と現状を考える」を開催し、これを超党派国会議員の視察と合体さ せたのだ。
 先号に紹介したように、二月八日には、民主党のもう一人の代表の菅直人氏も、長 良川へすでに来てくれている。今回は、運用した野坂浩賢の寄りどころとなったキー ワード「運用しても、被害は軽微」を検証するためのシンポジウムである。
 ご存知のように、河口堰運用後にはわずか五五日目に、環境悪化の指標となるアオ コが発生し、その後も、水質・底質の極端な悪化、サツキマス・アユ・ヤマトシジミ 他魚介類の激減が続いていて、その被害は「軽微」どころではない、「莫大」なもの となっている。
 二人のモニタリング委員は、運用前の円卓会議で、「反対派が言うように、ゲート を上げておいて、塩害を防ぐ他の方法を考えてもだいじょうぶ」(奥田)、「水質の 調査がまだ終わっていないのに、運用を始めるべきではない」(西條)と言っておら れた。お二人はこの日、大きな被害が現在長良川で進行していることを国会議員や会 場のマスコミにむけて語られ、運用前の心配が現実になっていることを指摘された。
 長良川河口堰を運用した時、野坂大臣は、「天野君たちの運動にも答えなければ」 とも言ったという。それは、長良川では初めて、運用後のモニタリングを五年間続け 、その委員会で問題があれば、運用を止めることができるというシステムをつくると いうことだった。しかしそのモニタリング委員会は、奥田・西條氏の他は、建設省の 御用学者のような研究者が多数を占めている。しかも非公開。これでは、いくら奥田 ・西條両先生が陸水学の権威でも、数では負ける。こんなものを五年間続けても、ゲ ートは上がりっこない。
 だから私達は、公共事業チェックを問う世論づくりのために、昨年も「世界会議」 や、その三月二十日には東京で「公共事業チェック!二十一世紀の山河を問う」を開 催して、「公共事業チェックを求めるNGOの会」(現在四〇〇団体が加盟)も作り 、諌早へ菅直人氏や「公共事業チェックを実現する議員の会」をひっぱってゆき、こ の間の諌早騒ぎを演出するなどもしてきた。
 これは、一月三十一日にようやく重い腰を上げてくれた環境庁の「長良川への独自 の調査」を後押しするための世論づくりでもある。
 そして、運用後初めての、自民党大臣・亀井静香氏との面会も実現させ、亀井大臣 には「モニタリング委員会」の公開を約束させた。殺し文句は「今時、原子力委員会 でも公開してますよ」だった。亀井大臣は、公開をしぶる官僚・竹村公太郎建設省河 川局開発課長を、「やましいことがないなら公開しろ」とどやしつけた。竹村課長は 最後まで抵抗したが、この公開は大きい。さっそく公開された五月九日のモニタリン グ委員会では、マスコミを前にして、これまでほとんど発言しなかった委員が、建設 省の調査方法の不備などを指摘し始めたからだ。
 さて。長良川を視察し、シンポジウムに出席した鳩山由紀夫民主党代表らは口々に 「予想した以上の被害に驚いた」、「運用を見直すように政治的に動きたい」と発言 した。
 翌日の七月八日には、環境庁も、自然保護協会からのヒヤリングを実行してくれて いる。
 風は、我々に吹いている。民主党は、社民党の非協力で今国会では廃案にさせられ た「公共事業コントロール法」を強化して、九月からの臨時国会に再提出の予定であ る。これには、経済同友会や自治労などの新たな応援もあり、今度は勝負ができるだ ろう。
 そこで、皆さんにお願いがある。一つはあの「おたかさん」が、国会が公共事業を 決めるという当然の法律「公共事業コントロール法」を支持するように説得してほし い。
(土井たか子社民党党主・千代田区永田町2−1−2 衆議院第二議員会館320) 二つめは、九月のイベントに一万人以上の市民を集め、我々の大きさを見せつけるこ と。一人でも多くの人を、今年は連れてきてほしい。三つめは、あなたの読んでいる 新聞に、「公共事業コントロール法」について報道するように投書してほしい。
 いそごう、長良川のために。そして、日本中の、森と、川と、海のために。

七月十四日

追伸一、「公共事業コントロール法」とは、公共事業の決定権を、閣議ではなく国会 へ持ってくるというもの。これに反対する国会議員がいることがおかしいし、それは “公共事業マフィア”と言うべきだろう。
追伸二、この四月より、岩波書店の月刊誌「世界」で、“川は生きているか”の連載 を始めています。「二一世紀の河川思想」(共同通信)と併わせ、読んで、内外の最 も新しい河川事情を仕入れて、あなたの愛する人々に伝えて下さい。


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