VOL.22-3


民衆が水をとりもどすこと
元環境庁長官 岩垂寿喜男

 民族学者・宮本常一氏は「民衆が水を管理し、民衆が水を自分たちのものとして考え、これを操作してゆく間は水は汚れるものではない」と述べている。いまの日本で水を管理しこれを操作するということはどういうことか?その答えは簡単ではないが、例えば長良川のような大きな川から山里の小さなせせらぎに至るまで、この国の河川行政は、民衆が「水を自分たちのもの」と考えることとは無関係であったように思う。
 たまたま昨日、日本自然保護協会から「長良川河口堰が自然環境に与えた影響」という報告書が届けられた。
 河口堰の運用を決断された当時の建設大臣野坂浩賢氏が「五年間モニタリングをつけるので問題があればそこで解決すれば良い」といわれたが、今年は湛水がはじまった一九九五年七月六日から五年目に入った。
 自然保護協会のレポートは、そのうちの四年間の調査結果であり、いわば「民衆のモニタリング」である。
 報告書は「河口堰の自然環境への影響は水質・底質・底生生物・魚類・植物群落・鳥類など多岐にわたっており、いくつかの項目については今後の継続調査を必要としますが、水質・底質・底生生物・魚類・植物群落などに関しては明白な影響が出ています」と指摘している。
 民衆が水を自分たちのものとして考えるためには、建設省のモニタリングと民衆のモニタリングの間の乖離をうめる努力が必要であろう。
 したがってモニタリング委員会は今後も継続されるべきであり、もし建設省がこれを打ち切るというならば、環境庁が独自にでもこれを行うべきである。
 私の長官時代、建設省と環境庁との間に「連絡会議」を設置すると共に、環境庁として自然環境のモニタリングを実施することにした。またモニタリングの結果、影響が大きい場合はゲートを開放することについても合意をみた。
 この立場から日本生態学会が出した「長良川の汽水域の生態系が充分に究明される前に河口堰建設と付帯工事が行われたことを憂慮し、(一)最低五年間について河口堰を開放し、汽水域の自然の回復を図ること。(二)その期間中に生じる長良川の生態系の変化について上中流域や河口内湾域も含めたモニタリング調査を実施して頂くことを要望する」という要請が実現することを期待したい。また、私自身もその実現へむけ働くつもりだ。
 天野さんが強調されるように「長良川は全国の川の身代わり」であり、民衆の水を取り戻す主戦場である。


1999年7月4日三重県長島町中央公民館にて講演

Photo by 伊藤孝司



「長良川河口堰が自然環境に与えた影響」 報告書まとまる

 長良川河口堰事業モニタリング調査グループ、長良川下流域生物調査団、サツキマス研究会など、岐阜・三重・愛知各県のNGOや研究者グループが、5年以上にわたりモニタリングを続けてきた調査結果が、日本自然保護協会から「長良川河口堰が自然環境に与えた影響」報告書として発行されました。長良川河口堰の影響は、水質・底質・プランクトン・底生生物・魚類・植物・鳥類など21編の論文によって、次第に明らかになってきました。報告書は希望する方には、以下の方法でお分けしています。

◆郵便振替 00150-2-51775
日本自然保護協会
本体価格3000+税150+送料700
=合計3850円
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