国際ダムサミット宣言

21世紀の河川哲学


これは96年9月に長良川で開催された“国際ダムサミット”の内外ゲストが共同で作成したものです。

私たちはこれを、21世紀の子供たちに託します。



21世紀の河川哲学



I. 世界と日本の共通思想



 1. 川とはなにか。そして人間社会との関わり

(1)川は、森と海をつなぐものであり、森・川・海のつながりが、私達地球上に生

  を受けたものの生命の源である。

(2)川は、水、土砂及び生物等を含めた物質循環の幹線である。

(3)川は、流域の生命を育み、人間の暮らしと生産を与え、憩いとやすらぎを与え

  るなど、自然的、社会的、文化的な多面機能を有している。

(4)川の恵みの享受は、現在の世代の希望を充たすのみならず、将来の世代の希望

  も充たすものでなければならない。



 2. 20世紀の河川思想と河川事業

(1)都市化、工業化の時代となった20世紀に、人間は、川を、経済開発という狭い

  目的に従わせるために、近代土木技術を使い、ダム、高堤防等による利水・治水

  を優先させた。

(2)ダム建設は、経済成長と生活の利便化を名目としたが、環境・生態系及び流域

  の生活文化が失われ、なおかつ下流における洪水災害が増加したのみであった。

(3)20世紀の河川利用方式は、長期的視点に立てば経済的にも採算が合わないこと

  が次第に明らかになり、政策の抜本的転換の必要性が高まっている。



 3. 21世紀における川のあり方

 我々は、川を経済成長と生活の利便追求の下僕であることから解放し、川が本来的

に持つ多面的機能を総合的に発揮できるようにしなければならない。そのためには、

次の原則による河川思想を確立する必要がある。

(1)川における水、土砂及び生物等を含めた物質循環を尊重し、水源林から汽水域

  まで、すべての「ウエットランド」を対象に、自然の維持回復をはかる。

(2)川の恵みは一部の人々の利益のために利用されることなく、これをもっとも必

  要としている人々に配慮し、公平に分配される。同時に人間以外の生物にも、持

  続的で良好な生息環境が保証されるように配慮する。

(3)川と関わりつつ歴史的に創造されてきた地域文化を尊重し、保全する。各水系

  の自然と共存する生活様式はまた、世界的な視点から保存すべき文化でもある。

(4)沖積平野に住む以上、洪水氾濫は必然である。川が溢れることを前提として、

  水害防備林や遊水地等を含めた水害の軽減方策を、流域ごと場所ごとに工夫する。

(5)川の管理は流域住民を中心とし、技術者はその補佐役となる。川の管理と活用

  の方策は、流域住民の徹底した議論を通して決定し、その実施に試行期間を設け、

  不都合が生じた場合はこれを修正しながら推進する。



U. 日本における課題と行動



 4. 河川管理の転換のための課題と行動

(1)川との共生を可能とする「環境権」を国民の権利として確立し、河川関連法の

  体系を経済開発優先から環境・生態系及び川の文化の保全へと転換する。

(2)縦割り行政及び審議会方式による閉ざされた意思決定のしくみを改め、流域住

  民及び国民に情報を公開し、川の管理における市民の自己決定権を主軸とした法

  制度に改める。

(3)日本にとって必要なのは、森・川・海を通した、持続可能な「ウエットランド

  の管理計画である。

(4)破壊された川の環境を回復するため、川の自然な営みに戻す修復事業を行う。

(5)各流域で利用可能な水資源の「容量」を越えて経済活動や人口が集中すること

  を制限し、土地利用計画その他の方策を通じて、それらの分散を促進する。

(6)大規模なダムや堰等の建設事業をただちに一旦中止し、上記の原則により総点

  検する。また、既存ダムについても、アロケーション及び費用対便益の視点も含

  めた総点検を行い、事業の中止、撤去及び水門解放を含む実効性のある対策を講

  じる。



 日本のODAなどの海外での河川開発についても、日本におけるこの課題と行動を

適用させる。


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